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東麻生どうぶつ病院 院長室5 クリオネ考

東麻生どうぶつ病院 院長室5

クリオネについてはまだ知られていないことがとっても多く、謎に包まれた生物です。
クリちゃんとの出会いを通して院長が2005年にまとめた、独りよがりのコーナーです。

2004年3月。
当院にかかっている飼い主さんの友達の友達が紋別でカニ漁をやっているそうで、
「先生は横浜から来たから、コレは見たことがないでしょう?」
と、1匹のクリオネをクール宅急便で送ってくれました。

クリオネ1

その日から1年と3ヶ月、生まれて初めて見たこのクリオネ(命名、クリちゃん)を
試行錯誤しながら飼育することになりました。
以下はあくまでも個人的に調べたもので、それぞれに学術的な裏付けがあるかどうかは
わかりませんし、私見も含まれています。興味のある人はご自身でお調べください。
また、私がおこなった観察や実験の結果も、たった一例の、個人的なものであって、
正式に公的に証明されるものではないことをご承知おきください。
(私の意見は青字で表記します。)
次にもしまた飼うことになったら、そのときまた勉強し直そうと思っています。

クリオネの生物学的分類

学名は軟体動物門、腹足綱、裸殻翼足目、裸亀貝科(クリオネ科)、クリオネ属の
クリオネ・リマキナ Clione Limacina 。
クリオネ科の仲間は世界中に16種(亜科を含めると24種)いるそうです。
こう見えても巻貝の一種で、外殻のない動物プランクトンなのです。
陸上生物のナメクジと同じ仲間(腹足綱で殻を持たないところまで一緒)です。

クリオネの名前

和名は「ハダカカメガイ」、通称「クリオネ」、俗称「流氷の天使」や「流氷の妖精 」。
英語では「シーエンジェル」とも呼ばれています。学名クリオネは、
ギリシャ神話の文芸(詩歌)の女神たちミューズのひとり、クレイオーに由来しています。
ちなみにリマキナの意味は、「ナメクジ」「ナメクジのような」。
つなげれば、「ナメクジのような海の女神」。。。かわいくないゾ

クリオネの分布

クリオネは北極圏を囲む北太平洋,北大西洋および南極圏に分布しています。
日本近海では北緯43度以北の寒流域に分布し,
オホーツク海沿岸では流氷と共に姿を現します。

流氷はゆっくりと溶けながら南下してきますが、
そのときに大量のプランクトンも溶け出します。
その植物プランクトンを食べる動物プランクトンも、
そしてその動物プランクトンを食べるクリオネも、流氷と一緒に南下するのです。
ちなみにクリオネですら食物連鎖の一員でしかなく、
サケやマス、さらにはアザラシやクジラに食べられる運命なのでした。

クリオネの大きさ

クリオネは住んでいる地域によって大きさが違います。
英国海峡に分布するのは小型で、0.3〜1.0cm。
北極海で見られるのは大型で、3.5〜8.0cmもあります。
オホーツク海岸岸城で見られる群は0.5〜3.0cmで、ちょうど中間の大きさです。

ちなみにうちのクリちゃんは1.0cmでした♪

クリオネの歴史

1774年にPallasにより紹介されたものが世界初です
(前年イギリスのフィップ船長が、英国王を乗せたグリーンランド沖への
ホエールウォッチングの航海中にクリオネを発見したそうです)。
日本では1946年の日本動物図鑑に時岡博士が初めて紹介しました。

クリオネの体

体はほぼ円筒形をしています(同じ仲間で比較的温暖な海に住んでいるヒョウタンハダカカメガイは、
翼足が極端に短かくズングリムックリで、名前通りヒョウタン型をしています)。

半透明で体内が透けて見えますが、これはクリオネを食べようとする魚に
見つかりにくくするためと思われます(クラゲといっしょ?)。

頭にある2本のツノのようなものは触角で、
人間でいう耳や目、鼻のような役割を担っています。

クリオネ2

頭部の赤い部分は足葉(収納している口円錐)、
腹部の赤い部分は生殖腺や中腸腺(人間でいう肝臓や膵臓に相当)です。
ちなみにカナダ西海岸のクリオネは、
内臓が緑色をしているそうです(ガミラス星人か?)。

手のように左右に張った翼状の足(翼足)を羽ばたくようにして水中を泳ぎますが、
遊泳力は強くなく、海中を漂って移動しています。

クリオネ4

クリオネはエラがありません、呼吸は皮膚呼吸
(体の表面から水中の酸素を取り込む)で行っています。

クリオネの食事

クリオネが植物プランクトンを食べるのは幼生期のみで、
成体は動物プランクトンを食べる肉食です。
しかも食べる相手は1種類、
「流氷のキューピット」と称される同じ翼足類の動物プランクトン、
ミジンウキマイマイ(学名リマキナヘルシナ Limacina helicina)のみです。
著作権の問題等が発生すると困るので、写真は掲載しません。絵で判断してください。
ちょうどカタツムリの殻に羽が生えて、
さかさまになって泳いでいる姿を想像してみましょう♪

クリオネ7

他の動物プランクトンを食べるという話もありますが、証明されていません。
また、クリオネ同士で共食いもするともいわれていますが、定かではありません。

クリオネはミジンウキマイマイを見つけると接近し、触角の間からパカッと頭部が割れて
バッカルコーン(口円錐)と呼ばれる6本の触手を伸ばし、
それでミジンウキマイマイを抱え込みます。
そして口円錐の奥にある一対のフック(歯というか針というか)を
ミジンウキマイマイの軟体部に突き刺し、その養分をゆっくりと吸収します。
哀れ、ミジンウキマイマイは殻だけとなって捨てられてしまうのです。

クリオネ8

クリオネの寿命

まだはっきりとわかっていません。
絶食状態であった(後述)クリちゃんが1年3ヶ月生きたのですから、
ミジンウキマイマイさえいれば、もっと長生きしたに違いありません。

クリオネの繁殖

クリオネは雌と雄の両方の器官を持っています(カタツムリといっしょ♪)。
というわけで、クリちゃんはクリ太郎でもあり、クリ子でもあり。

頭を上にして2匹がおなかをくっつけて交接し、
雄役が雌役の生殖孔に精子の入ったカプセルを渡します。
その約4時間後、雌役は全体がゼラチン質で覆われたゼリー状の
卵の塊を海水中に産卵します。
卵の塊の中の卵の数は、約100〜2000個だということです。

クリオネの子供

卵から3〜4日で孵化した幼生はヴェリジャー期幼生と呼ばれ、
壼のような形(巻貝のよう)をしています。
その2週間後殻を捨て、体の周りに繊毛を持った多輪形幼生になります。
多輪形幼生は翼足がまだ発達していないので繊毛運動によって移動しています。
約半年で成体となります。幼生は植物プランクトンを濾過補食し、成体は肉食となります。

クリオネの睡眠?

クリちゃんは、4〜5日ずっと泳ぎ続けた後は、
2〜3日ビンの底のほうで丸くなって動かなくなりました。
最初は死んだのかとビックリしましたが、また元気に泳ぎ出します。
これを死ぬまで繰り返していたので、寝ているのだ、と確信しました。
自然界では寝ているときに捕食される可能性も高いと思われるので、
クリオネの自然界における平均寿命は思ったよりも短いと推測されます。
また、常に海水を循環させている水槽で飼育されているクリオネの寿命が短いのは、
睡眠(休息)がきちんととれていないからだと私個人は思います。
うちのクリちゃんの寝顔はこちら。

クリオネ3

クリオネの飼育

クリちゃんは4℃を維持した冷蔵庫で飼育しました。
一般の冷蔵庫では扉の開け閉めで温度が変わるので、うちのように
扉を開けずにライトを点灯して中を確認できるようなものが良いでしょう。
デジタルで温度表示もできる優れもの。車用の温冷庫です。

クリオネ6

冷蔵庫の中に小さな水槽というかビンに海水とクリちゃんを入れました。
ビンの蓋はあえてしっかりとは閉めませんでした。
なぜなら低温なので雑菌が繁殖しなかったからです。
↑顕微鏡および培養検査で立証済み

中の海水は、あまり取り替えませんでした。特に濁ってきたわけではありませんが、
気持ちの問題で2ヶ月に1回くらいは交換しましたが、
それも後半は近所の海(日本海)の海水でした。
↑オホーツク海と日本海の海水で、プランクトンの組成やpHなどはほとんど同じでした。

クリちゃんは顕微鏡で見える範囲のプランクトンを食べているようすはありませんでした。
↑24時間ビデオ監視で口を開けたようすがないこと、
ビンの中のプランクトンの数が減っていないこと、は検証済み。
動物プランクトンの中で入手可能なものと言ったら思い当たるのは
シーモンキー(エビの仲間でアルテミア。ブラインシュリンプとも言う)
しかなかったので、買ってはみたものの、
食生活について調べが進んでいたこともあり、
クリちゃんの口に合うとも思えなかったので試していません。

海水中の溶存酸素を増やす意味でも、数日に一回は海水をよく攪拌しました。
もちろんクリちゃんごと混ぜるわけにはいきませんので、
ビンをもう1個用意しておき、交互に攪拌して引っ越しさせていました。

クリオネの死亡確認

死んだのか寝ている(休んでいる)のか、判断がなかなか難しいのも事実です。
ちなみに、うちのクリちゃんは。1年をすぎた頃からだんだんとやせ衰えていき、
まず右手(右の翼足)が白く硬くなってもげてしまい、
うまく泳げなくて沈んでしまいました。
それでも数日は水槽の底でもがいていましたが、やがて動かなくなり、
体の半透明の部分もくずれていって赤い内臓が露出してしまいました。。。
その段階で死亡したとあきらめ、
遺体を保存しようとエチルアルコール溶液に浸したら、
脱水されて半透明の部分がなくなってしまいました。
今度するときは、浸透圧を調整したホルマリンにしようと思っています。

以上。

またクリオネを飼育する機会がありましたら、そのときの最新情報を入手しつつ、
今回のことを踏まえて、いろいろとまた試行錯誤してみようと思っています。
ミジンウキマイマイを調達しない限りは、餓死させる運命なのかも知れません。
かと言って、クリオネのエサにするためだけにミジンウキマイマイを飼うのも心が痛みます
(ミジンウキマイマイ自体もきっとかわいいに違いない)。
自然の生き物は自然の中で生きるのが一番良いのでしょうか。
もっとも、この先地球温暖化で流氷が消滅してしまったら、
ホッキョクグマやクリオネだけでなく多くの生物も消え去るのでしょう。。。

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